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小説 -1-「逆転ブランディング」

2026年08月13日 コラム

本日から、定期的に「逆転ブランディング」をシリーズとして掲載していきますので、お読みいただけると嬉しいです。

・・・「世界初の完全養殖を実現した近大マグロ。しかし、完全養殖に成功しただけでは市場での評価は予想外に低かった。そこから『商品を売る』発想を逆転させ、お客様の声を起点にブランドを構築していった実体験を、悩める中小企業二代目社長との対話形式で書き記す。」

近大マグロ仕掛人の「逆転ブランディング」-1-


ブランドは大企業だけのものと思っているあなたへ。
「わからないことは、お客に訊け。」近大マグロを生んだ現場発のブランディング術
中小企業・学校・地域にも使える!誰でもできるACTブランディング

<プロローグ>
「今日はありがとうございました」

講演が終わると、会場では名刺交換や情報交換の輪が広がっていた。

私はいつものように参加者の方々と言葉を交わしていた。

すると、一人の女性が少し緊張した表情で近づいてきた。

「先生、少しだけお時間いただいてもいいですか?」

「もちろん。どうしました?」

彼女は三十代後半くらいだろうか。

真面目そうな雰囲気で、丁寧に名刺を差し出した。

そこには、

佐藤 美咲と書かれていた。

関西の地方都市で、創業五十年になる金属加工会社の代表取締役。

「実は、父から会社を引き継いで三年になるんです。でも……」

美咲さんは少し言葉を詰まらせた。

「品質には自信があります。でも、売上は年々減っています。社員を募集しても、応募はほとんどありません。設備投資もしないといけない。でも、資金にも余裕がない。この先、本当に会社を続けていけるのか……正直、不安なんです」

私は黙って話を聞いた。

こうした相談は、決して珍しいものではない。

日本には、優れた技術や商品を持ちながら、その価値を十分に伝えられず、苦しんでいる会社がたくさんある。

しばらくして、美咲さんが顔を上げた。

「先生のお話を聞いていて、ずっと気になっていたことがあるんです」

「何でしょう?」

「近大マグロって、どうやってあんなブランドになったんですか?」

私は思わず笑った。

「みんな、そこを聞いてくるんですよ」

美咲さんも少し笑った。

けれど、すぐに真剣な表情に戻った。

「正直に言うと、私にはブランドって、大企業や有名企業だけのものだと思っていました」

「うちみたいな会社には関係ない、と?」

「はい」

「それに、お金も広告費もありません。テレビCMなんて打てませんし、有名人を起用することもできません」

私はゆっくりとうなずいた。

「実はね……」

「はい」

「近大マグロも、最初から有名だったわけじゃないんです」

「えっ?」

「むしろ、ほとんど知られていなかったと言ってもいいくらいです」

「そうなんですか?」

「しかも、ブランドづくりの専門家がいたわけでもない」

美咲さんは驚いたように目を見開いた。

―続くー