小説 -1-「逆転ブランディング」
本日から、定期的に「逆転ブランディング」をシリーズとして掲載していきますので、お読みいただけると嬉しいです。
・・・「世界初の完全養殖を実現した近大マグロ。しかし、完全養殖に成功しただけでは市場での評価は予想外に低かった。そこから『商品を売る』発想を逆転させ、お客様の声を起点にブランドを構築していった実体験を、悩める中小企業二代目社長との対話形式で書き記す。」
近大マグロ仕掛人の「逆転ブランディング」-1-
ブランドは大企業だけのものと思っているあなたへ。
「わからないことは、お客に訊け。」近大マグロを生んだ現場発のブランディング術
中小企業・学校・地域にも使える!誰でもできるACTブランディング
<プロローグ>
「今日はありがとうございました」
講演が終わると、会場では名刺交換や情報交換の輪が広がっていた。
私はいつものように参加者の方々と言葉を交わしていた。
すると、一人の女性が少し緊張した表情で近づいてきた。
「先生、少しだけお時間いただいてもいいですか?」
「もちろん。どうしました?」
彼女は三十代後半くらいだろうか。
真面目そうな雰囲気で、丁寧に名刺を差し出した。
そこには、
佐藤 美咲と書かれていた。
関西の地方都市で、創業五十年になる金属加工会社の代表取締役。
「実は、父から会社を引き継いで三年になるんです。でも……」
美咲さんは少し言葉を詰まらせた。
「品質には自信があります。でも、売上は年々減っています。社員を募集しても、応募はほとんどありません。設備投資もしないといけない。でも、資金にも余裕がない。この先、本当に会社を続けていけるのか……正直、不安なんです」
私は黙って話を聞いた。
こうした相談は、決して珍しいものではない。
日本には、優れた技術や商品を持ちながら、その価値を十分に伝えられず、苦しんでいる会社がたくさんある。
しばらくして、美咲さんが顔を上げた。
「先生のお話を聞いていて、ずっと気になっていたことがあるんです」
「何でしょう?」
「近大マグロって、どうやってあんなブランドになったんですか?」
私は思わず笑った。
「みんな、そこを聞いてくるんですよ」
美咲さんも少し笑った。
けれど、すぐに真剣な表情に戻った。
「正直に言うと、私にはブランドって、大企業や有名企業だけのものだと思っていました」
「うちみたいな会社には関係ない、と?」
「はい」
「それに、お金も広告費もありません。テレビCMなんて打てませんし、有名人を起用することもできません」
私はゆっくりとうなずいた。
「実はね……」
「はい」
「近大マグロも、最初から有名だったわけじゃないんです」
「えっ?」
「むしろ、ほとんど知られていなかったと言ってもいいくらいです」
「そうなんですか?」
「しかも、ブランドづくりの専門家がいたわけでもない」
美咲さんは驚いたように目を見開いた。
―続くー




