小説-13-「近大マグロ仕掛人の逆転ブランディング」
2026年08月25日
コラム
―前回から続く―
【90秒の勝負】
・・・さらにもう一つ、鮮度保持の話もあった。
美咲が興味深そうに話を聞いてくれたので、私は調子に乗って話を続けた。
「マグロは、取り上げた後の処理も大変なんや。」
「えっ、どうしてですか?」
「体温が上がるからや。」
マグロは他の魚と違い、海水温より5℃~8℃も体温が高い。
しかも、出荷のため取上げるときなどは、さらに体温は上がる。
「体温が上がりすぎると、『身焼け』を起こしてしまうんよ。」
「身焼け?」
「うん、身が焼けてしまうと、商品価値が大きく下がってしまう。」
「だから、取上げ後の処置がすごく重要になってくるんや。」
「どんな処置をするんですか。」
「まず、血を抜く。血はもっとも早く酸化して腐敗が進んだり臭いが出やすくなるからね。」
「続いて、内臓やエラを取る、神経を抜く、そして素早く氷水でマグロ全体を冷やす。」
「時間との勝負なんですね。」
「そう。」
「どれくらいですか?」
「だいたい90秒以内。」
「90秒!」
「そうや。早くしないとマグロの体温が上がってしまうやろ。」
「その後、陸上に移し1~2℃程度に保たれた水槽で6時間以上冷却してから出荷する。」
私は美咲に言った。
「こういう話をお客さんに伝えると、商品に対する見方が変わってくると思わん?」
「『単に養殖だから安心』というだけではなくてですか?」
「そう、ここまで品質管理しているから、“安心”なんだという理由が分かる。」
美咲は深くうなずいた。
「なるほど……。」
「ブランドづくりいうのはね。」
私はゆっくりと説き伏せるように言った。
「商品に何かを足すことやない。」
「その商品の中にすでにある価値を、見つけて、伝えることなんや。」
【美咲の気付き】
美咲は、しばらくノートを見つめていた。
ページには、今日の話がびっしり書き込まれている。
「先生。」
「うん?」
「一つ、気になったことがあるんですけど。」
「何?」
「先生は、ずっと『お客様に訊く』と言っていますよね。」
「そうやね。」
「1,000人以上に訊いたんですよね。」
「うん。」
「そして、その中のたった一人の『じゃあ安心よね』という言葉が響いた・・・。」
「そうや。」
「さらに、生産現場へ行って、そこで見聞きしたことをお客様に伝えた。」
「そう。」
美咲は新しいことを発見したように、目を輝かせて顔を上げた。
「もしかして……。」
「うん?」
「ブランディングって、『単純に自分たちの強みを考えること』じゃないんですか?」
私は笑った。
「よう気づいたな。」
「それじゃあ、要するにその“強み”ってどうやったら見つかるんですか?」
私はホワイトボードに三つの言葉を書いた。
現場を見る。
お客様に訊く。
価値を伝える。
「これが、近大マグロでやってきたことの原点や。これをしっかり繰り返すことで“強み“が見えてくる」
美咲は、その三つの言葉を食い入るように見つめていた。
「そしてね。」
私はペンを置いた。
「実は、この三つをもっとシンプルに整理した考え方がある。」
「それが・・・ACTブランディングや。」
「ACT・・・。」
「そや。」
「でも、まだ今日は説明せえへんよ。(笑)」
「ええっ!」
美咲がずっこけながら笑った。
「先生、また焦らすんですか?」
「焦ったらあかん。(笑)」
「ここまで聞いたら、今すぐに知りたいです。」
「次の章で、ちゃんと説明するから。」
私は笑ってコーヒーを飲んだ。
「ただ、その前に。」
「はい。」
「美咲さんの会社の中をじっくり見せてよ。」
「私の会社の中?」
「そうや。」
「金属加工会社やから工場もあるやろ?」
「はい。」
「現場には、きっと『まだ気づいてへん価値』があるはずやで。」
「……。」
「問題は、それを誰が見つけるかや。」
美咲は、会社の工場の中を思い浮かべているようだった。
「私たちにも……あるんでしょうか。」
「そりゃぁ、あるよ。」
「そんなん、どうして分かるんですか?」
私は笑った。
「五十年も続いてる会社に、何もないわけないやろ。」
美咲の表情が変わった。
不安そうだった顔に、少しだけ期待と明るさが混じった。
「先生。」
「うん?」
「次回、うちの工場を一緒に見てください!」
「もちろん。」
「よろしくお願いします。」
私はうなずいた。
「さあ、美咲さん。」
「はい。」
「ここからが、あんたの会社のブランドづくりや。」
―続く―
【90秒の勝負】
・・・さらにもう一つ、鮮度保持の話もあった。
美咲が興味深そうに話を聞いてくれたので、私は調子に乗って話を続けた。
「マグロは、取り上げた後の処理も大変なんや。」
「えっ、どうしてですか?」
「体温が上がるからや。」
マグロは他の魚と違い、海水温より5℃~8℃も体温が高い。
しかも、出荷のため取上げるときなどは、さらに体温は上がる。
「体温が上がりすぎると、『身焼け』を起こしてしまうんよ。」
「身焼け?」
「うん、身が焼けてしまうと、商品価値が大きく下がってしまう。」
「だから、取上げ後の処置がすごく重要になってくるんや。」
「どんな処置をするんですか。」
「まず、血を抜く。血はもっとも早く酸化して腐敗が進んだり臭いが出やすくなるからね。」
「続いて、内臓やエラを取る、神経を抜く、そして素早く氷水でマグロ全体を冷やす。」
「時間との勝負なんですね。」
「そう。」
「どれくらいですか?」
「だいたい90秒以内。」
「90秒!」
「そうや。早くしないとマグロの体温が上がってしまうやろ。」
「その後、陸上に移し1~2℃程度に保たれた水槽で6時間以上冷却してから出荷する。」
私は美咲に言った。
「こういう話をお客さんに伝えると、商品に対する見方が変わってくると思わん?」
「『単に養殖だから安心』というだけではなくてですか?」
「そう、ここまで品質管理しているから、“安心”なんだという理由が分かる。」
美咲は深くうなずいた。
「なるほど……。」
「ブランドづくりいうのはね。」
私はゆっくりと説き伏せるように言った。
「商品に何かを足すことやない。」
「その商品の中にすでにある価値を、見つけて、伝えることなんや。」
【美咲の気付き】
美咲は、しばらくノートを見つめていた。
ページには、今日の話がびっしり書き込まれている。
「先生。」
「うん?」
「一つ、気になったことがあるんですけど。」
「何?」
「先生は、ずっと『お客様に訊く』と言っていますよね。」
「そうやね。」
「1,000人以上に訊いたんですよね。」
「うん。」
「そして、その中のたった一人の『じゃあ安心よね』という言葉が響いた・・・。」
「そうや。」
「さらに、生産現場へ行って、そこで見聞きしたことをお客様に伝えた。」
「そう。」
美咲は新しいことを発見したように、目を輝かせて顔を上げた。
「もしかして……。」
「うん?」
「ブランディングって、『単純に自分たちの強みを考えること』じゃないんですか?」
私は笑った。
「よう気づいたな。」
「それじゃあ、要するにその“強み”ってどうやったら見つかるんですか?」
私はホワイトボードに三つの言葉を書いた。
現場を見る。
お客様に訊く。
価値を伝える。
「これが、近大マグロでやってきたことの原点や。これをしっかり繰り返すことで“強み“が見えてくる」
美咲は、その三つの言葉を食い入るように見つめていた。
「そしてね。」
私はペンを置いた。
「実は、この三つをもっとシンプルに整理した考え方がある。」
「それが・・・ACTブランディングや。」
「ACT・・・。」
「そや。」
「でも、まだ今日は説明せえへんよ。(笑)」
「ええっ!」
美咲がずっこけながら笑った。
「先生、また焦らすんですか?」
「焦ったらあかん。(笑)」
「ここまで聞いたら、今すぐに知りたいです。」
「次の章で、ちゃんと説明するから。」
私は笑ってコーヒーを飲んだ。
「ただ、その前に。」
「はい。」
「美咲さんの会社の中をじっくり見せてよ。」
「私の会社の中?」
「そうや。」
「金属加工会社やから工場もあるやろ?」
「はい。」
「現場には、きっと『まだ気づいてへん価値』があるはずやで。」
「……。」
「問題は、それを誰が見つけるかや。」
美咲は、会社の工場の中を思い浮かべているようだった。
「私たちにも……あるんでしょうか。」
「そりゃぁ、あるよ。」
「そんなん、どうして分かるんですか?」
私は笑った。
「五十年も続いてる会社に、何もないわけないやろ。」
美咲の表情が変わった。
不安そうだった顔に、少しだけ期待と明るさが混じった。
「先生。」
「うん?」
「次回、うちの工場を一緒に見てください!」
「もちろん。」
「よろしくお願いします。」
私はうなずいた。
「さあ、美咲さん。」
「はい。」
「ここからが、あんたの会社のブランドづくりや。」
―続く―




