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小説-32-「近大マグロ仕掛人の逆転ブランディング」

2026年09月16日 コラム


~地域編~
―前回から続くー

【何もないは、本当なのか ?】
「例えば、ある町に山がある。」
「はい。」
「川がある。」
「はい。」
「古い商店街がある。」
「はい。」

「地元の人にとってはどんな風に見えると思う?」
「特別なものでもなく、当たり前のように見えるでしょうね。」
「うん、それが『何もない』になる。」
「でも、都会の人から見たら?」

美咲は新しいものを発見したように言葉を弾ませた。
「ひょっとしたら、それは魅力に感じるかもしれませんね。」
「そうやろ。」

「ということは、つまり……。」
「価値は、物そのものだけで決まるんやない。」
「あ、そうか。見る人によって変わるんですよね。」
「そう、そこがポイントや。」

私はホワイトボードに書いた。
「当たり前」=「価値がない」ではない。

「見過ごされがちやけど、ここを勘違いしたらあかん。」
美咲は大きくうなずいた。

【地域の強みを、地域の人に訊く】
「でも先生、『言うは易し』で、具体的に地域ブランドを作っていくにはどうするんですか?」
美咲が尋ねた。

「まず聞く。」
「誰に?」
「地域の人に。」
「住民?」
「そう。」
「商店主」
「農家」
「漁師」
「若者」
「高齢者」
「子育て世代」

「そして、外から来た人にも聞く。」
「なぜですか?」
「そりゃあ、外から見たほうが地域の魅力に気づきやすいからやね。」
「なるほど。」

「住んでる人には当たり前でも、初めて来た人には『えっ、こんなものがあるの?』ということがあるんですよね。」
「すぐには見つからんかもしれんけど、辛抱強く続けることやね。」

その時、美咲はハッとしたように声を強めた。
「それ、近大マグロと同じですね。」
「まあ、ある意味そうやね。」

「先生が現場で一人のお客様から聞いたヒントを価値にして、より多くのお客様にメディアを通して伝えたんでしたよね。」
「うん、そうやったね。」

【地元の人が知らない地元の価値】
「先生。」
「何や?」
「私の地元でも、似たようなことがあります。」
「どんな?」
「地元では誰も特別だと思っていないものを、県外の人がすごく喜んだりする。」

「うん、あるやろうね。」
「逆に、地元の人が『これが名物です!』と言っているものを、外から来た人はそれほど興味を持たなかったり…。」
「うん、そういうこともあるよね。」
「それって、いったい何が違うんでしょう?」

「それはね、相手が求めている価値と、こちらが伝えたい価値がズレてるからなんや。」
「そうか、以前教えていただいたように、会社の場合と全く同じですね。」
「そう。」

「自分たちが売りたいものと、お客様が欲しいものは違う。」
「そう、『地域や地方の活性化も全く同じこと』、ということやね。」

【観光客を呼ぶだけでは続かない】
「ふつう地域活性化というと、観光客を増やすことばかり考えてしまいがちですよね。」
美咲が言った。

「うん、それも一つの方法やけどね。」
「でも?」
「観光客が増えても、その地域に住みたいと思う人が増えるとは限らんやろ。」
「確かに。」
「観光客が帰ったあと、町に何が残る?」
「……。」
「一時的な消費だけで終わることもある。」
「なるほど。」

「だから、地域ブランドでは、『来てもらう』だけやなくて、『関わってもらう』『住んでもらう』『働いてもらう』『また帰ってきてもらう』まで考えなあかんのや。」
「地域との関係をつくるんですね。」
「うん、そうやね。」

【住みたいと思う理由】
「例えば、ある地域に移住した人がいるとする。」
「はい。」
「次に、その人に『なぜ、この町を選んだんですか?』と聞いてみる。」
「どんな答えが出るんでしょう?」

「『自然が豊かだから』と回答するかもしれんね。」
「はい。」
「あるいは、『子育てしやすいから』かもしれん。」
「はい。」
「『人が親切だから』かもしれん。」
「なるほど。」
「『昔ながらの人間関係が残っているから』かもしれん。」
「それを魅力と感じる人もいますもんね。」

「そこなんや。」
「つまり、地域の価値って、建物や観光施設だけじゃない。」

私が話すと、美咲も同調したように続けた。
「人も、その人の考え方も価値になります。」
「暮らし方も価値になる。」
「文化も価値になる。」
「人とのつながりも価値になりますよね。」

私は美咲の回転の速さに驚きながらも相槌を打った。
「その通りやな。」

【人口を増やす、から選ばれる町へ】
美咲が考えながら言った。
「自治体は、どうしても『人口を増やそう』となりますよね。」

「そら、人口減少は大きな問題やからね。」
「でも、人口を増やすことだけを目標にすると?」
「数字ばかり追いかけることになる。」
「移住者を何人増やした。」
「観光客を何人増やした。」
「ふるさと納税をいくら増やした。」

私は続けた。
「数字も大事やけど、うわべだけを追いかけてると根本的なことを見逃しがちになってしまう。」
「ああ、その数字に隠された『なぜ?』を探し続けるんですね。」
「そう、『なぜ、その町を選んでもらえるのか、もらえたのか』を常に追求する。」
「そこがブランドづくりの根本なんですね。」
「そうやね。」

―続く―