小説-33-「近大マグロ仕掛人の逆転ブランディング」
2026年09月17日
コラム

~地域編~
―前回から続くー
【地域にもコンセプトが必要 】
「先生、企業にはコンセプトがありました。」
美咲が言った。
「『困ったときに、一緒に答えを探す金属加工会社』。」
「そうやったね。」
「学校なら、『この学校でどんな成長ができるのか』。」
「うん。」
「じゃあ、地域にもコンセプトが必要なんですね。」
「もちろん、必要やで。」
「『○○市は、○○な町です』。」
「まあ、そんなイメージかな。」
「でも、行政が勝手に決めたらダメですよね。」
「そう、そこが重要なポイントやな!」
「住民や外から来た人の声を、まずは良く聞くんですね。」
「そう。」
「地域の歴史や文化を調べる。」
「そう。」
「今ある産業や暮らしを見る。」
「うん、他にも見たり聞いたりせんとあかんことがいっぱいあるかも知れんしね。」
「その中から、地域ならではの価値を見つけていくんですね。」
「そう、それがコンセプトにつながる。」
【地域ブランドは、キャッチコピーではない】
「先生。もうひとつ質問が。」
「何や?」
「地域ブランドというと、『キャッチコピーを作ること』だと思っている人も多いですよね。」
「そうやな。」
「でも、それだけではないんですよね。」
私は笑って答えた。
「もちろんや。」
美咲も相槌を打ちながら言った。
「キャッチコピーは、価値を伝えるための言葉。」
「そう、その通り。」
「本当に大切なのは、その言葉の中身ですよね。」
「そこやな。」
「例えば、『人が温かい町』と宣伝するなら、本当に人が温かい町でなければいけない。」
「そうやね。」
美咲は復習するように答えた。
「住民自身が、その価値を実感していること。」
「そして、それを行動で示していること。」
「そこまで含めてブランドなんですね。」
「その通りやね。」
【「えっ!」と「なるほど」は地域でも使える】
「先生が近大マグロでやった『えっ!』と『なるほど』も、地域に使えますね。」
「もちろん。逆にそれ、使わなあかんと思うよ。」
「例えば?」
「地元では普通に食べているものが、実は全国的にも珍しかったとする。」
「『えっ?』ですね。」
「そう。」
「そして、その理由を聞いたら、『なるほど』となる。」
「それがストーリーになる。」
「歴史でもいい。」
「文化でもいい。」
「職人の技でもいい。」
「農業でも漁業でもええ。」
「地域の人の生き方でもいい。」
「そう。」
「つまり、地域にある『当たり前』を掘り起こす。」
「そこから物語をつくる。」
「それを伝える。」
「これもACTなんですね。」
「わかってるやん。」
私は美咲の成長を見て、なんだかうれしくなった。
【地域ブランドは行政だけでは作れない】
「もう一つ、大事なことがあるんや。」
「何ですか?」
「前にも言ったと思うけど、地域ブランドを行政だけでつくったらあかん。」
「なぜですか?」
「地域ブランドは、行政が考えて発信するだけでは完成せえへんからや。実際にその地域で暮らし、働き、商売をしている人たちが共感し、そのブランドを日々の行動で実践してこそ、ほんまのブランドになる。」
「なるほど……。」
「そやから、行政職員の大事な役割は、最初から『この町のブランドはこれや』と決めてしまうことやない。まず、住民のいろんな意見を聞くことやね。」
「でも、住民の意見って、前にも聞いたようにみんな違いますよね?」
「そうや。だからこそ大事なんや。ただ意見を集めるだけではあかん。『なぜ、そう思うんですか?』と、その理由まで掘り下げていくんや。」
「すると、表面的な意見の奥に、本当に大切にしているものが見えてくる……ということですか?」
「その通りや。」
私は、ここでマーケティング論でよく使われる「ドリルと穴」の話を持ち出した。
「たとえば、お客さんがドリルを欲しいと言ったとしても、本当に欲しいのはドリルそのものやない。ドリルを使って開けたい『穴』が欲しいんや、そしてその先には棚をつくりたいとか小屋を修理したいとかの目的があるもんや。」
「ああ、なるほど!」
美咲が頷いた。
「住民の意見も、それと同じや。『こういう施設が欲しい』『こんなイベントをしてほしい』という言葉だけを聞いていたら、本当の思いは見えてこない。でも、『なぜ、それが必要なんですか?』と掘り下げていけば、その奥にある『この町をこんな地域にしたい』『子どもたちにこんな未来を残したい』といった、本質的な思いが見えてくることがある」
「つまり、行政は住民の意見を集めるだけじゃなくて、その奥にある『本当の価値』を見つけることが大切なんですね。」
「そういうことや。」
私は続けた。
「そして、その価値を一緒につくっていくのが地域ブランドなんや。」
「住民」
「企業」
「学校」
「商店」
「農家」
「観光関係者」
「いろんな人が、それぞれの立場で地域の価値をつくっていく。」
美咲は少し考えてから、ゆっくり口を開いた。
「ということは……地域ブランドって、行政が『この町はこんな町です』と決めるものじゃなくて、地域のみんなでつくっていくものなんですね。」
「そう言うこと。」
「そして、行政はその中心に立って、みんなの声をつなぎながら地域として大切にする価値を広めていくんですね。」
「そうやな。」
「その価値を、住民も企業も学校も商店も、みんなが日々の活動の中で実践する。だから、外から来た人にも『この町って、こんなところなんや』と伝わっていく……。」
「うん、そこまでできたらもう十分かな。あとは継続だけやな。」
私は笑って答えた。
「地域ブランドは、行政がつくる『宣伝文句』やない、地域のみんなが共有し行動で示していく『約束』や。」
「地域ブランドは、地域全体の約束……。」
美咲は、その言葉を噛みしめるように頷いた。
―続くー




