小説-35-「近大マグロ仕掛人の逆転ブランディング」

―前回から続くー
第五章 ~総括編~
【これからの時代こそ、ブランドが必要になる】
―「選ばれる理由」は、未来をつくる―
「先生。」
打ち合わせの日。
美咲は、いつもより静かだった。
「どうしたん?」
「ちょっと考えていたんです。」
「何を?」
「これからのことです。」
「会社の?」
「はい。」
美咲は窓の外を見ながら続けた。
「会社の売上を伸ばすことも大事です。人材を採用することも大事です。でも……。」
「でも?」
「これから先、今までと同じやり方で会社を続けていけるのかなって。」
私はうなずいた。
「その感覚は、間違ってへんと思う。」
「やっぱり、そうですか?」
「時代はどんどん変わっているからね。」
【いいものさえつくれば売れる時代?】
「昔は、いいものさえつくれば売れる時代があったよね。」
「はい。」
「もちろん、今でも品質は大事やけどね。」
「でも、現代ではもう、それだけでは難しい時代になってる。」
「なぜですか?」
「全体のレベルが上がって、世の中にいいものが増えすぎたからや。」
美咲は少し考えた。
「確かに。」
「技術も上がった。」
「商品も増えた。」
「サービスも増えた。」
「インターネットで、全国どころか世界中の商品を比較できる。」
「選択肢が多すぎるんですね。」
「そう。」
「お客様からすれば、『良い商品』がたくさんある。」
「その中から、どうやって選ぶ?」
「……。」
「そこにブランドの役割がある。」
【良い会社から選ばれる会社へ】
私はホワイトボードに二つの言葉を書いた。
良い会社
↓
選ばれる会社
「この二つは、似ているようで違う。」
「良い会社なのに、選ばれないこともある。」
「そうですね。」
「逆に、技術力だけなら他にもっと優れた会社があるのに、選ばれている会社もあるよね。」
「そういう会社は、何が違うんでしょう?」
「『この会社に頼みたい』と思わせる何かがある。」
「それが選ばれる理由。」
「そうやね。」
【人口が減ると、「選ばれる」がもっと重要になる】
~この理由を確認すること~
「日本国内では、これから人口も減っていく。」
「少子化ですね。」
「そう。」
「ということは?」
「お客様が減る。」
「それだけじゃあない。益々国際競争が激しくなる。」
私は、東南アジア諸国やアフリカなど、人口がどんどん増えている国々の生産レベルが高まり、それらの国々が新たな競争相手として参入し、脅威となる可能性も強調した。
「企業にとっては大きな問題です。」
「学校も同じ。」
「生徒が減る。」
「地域も同じ。」
「住民が減る。」
「つまり、これからは『待っていれば選んでもらえる』時代ではなくなるということやな。」
「自分たちから、『なぜ選んでもらえるのか』を考えないといけないんですね。」
「ほんと、その通りやで。」
【人材採用にもブランドがある】
「先生。」
「うん、今度は何?」
「人材採用もブランドと関係がありますか?」
「大いにあるよ。」
「もちろん、商品を売るだけじゃないんですよね?」
「そう、商品だけやなく、会社そのものが選ばれる必要があるね。」
「なるほど。」
「採用面でも、給料は大きな要素ではあるけど、求職者はそれだけを見ているわけではないしね。」
「仕事の内容、やりがい、適性・・・。」
「それに、会社の雰囲気。」
「社長や社員。」
「成長できるかなどの将来性。」
「どんな価値を社会に提供しているか。」
「それこそ、意識するしないにかかわらず、いろんなものを見ている。」
「つまり、就職先としての『選ばれる理由』が必要なんですね。」
「そう。」
【うちで働く理由を考える】
「例えば、美咲さんの会社。」
「はい。」
「学生に『うちの会社は金属加工会社です』だけで説明したら?」
「ちょっと弱いですかね。そんな会社、他にいっぱいありますからね。」
「では、
『難しい加工にも挑戦できる』、
『自分の技術を身につけられる』、
『お客様と一緒にものづくりができる』、
『社長との距離が近い』、
などと伝えてみたら?」
「う~ん、会社のイメージがもっと具体的になって、共感してもらえる可能性が広がりますかねえ。」
「そうやろ。」
「なるほど、それもブランディングなんですね。」
「そうやで。」
「お客様だけじゃなく、社員や求職者にも『選ばれる理由』が必要ということですね。」
「うん、その通りや。」
【学校も「選ばれる理由」が問われる】
「これは学校にも当てはまる。」
「少子化ですからね。」
「昔は、地域に学校があれば、それだけで生徒が集まりやすかった。」
「でも、今は違う。」
「保護者も生徒も、学校を比較する。」
「大学進学実績。」
「部活動。」
「教育方針。」
「先生。」
「学校生活。」
「通学環境。」
「そして、『この学校に行ったら、自分はどうなれるのか』。」
「そこまで見られる。」
「だから学校も、
『何を教えるか』だけではなく、
『なぜ、この学校を選ぶのか』
を考えて伝えなければならない。」
【地域も「選ばれる理由」が必要】
「地域も同じやね。」
「住んでもらう。」
「働いてもらう。」
「観光で来てもらう。」
「企業に進出してもらう。」
「全部、『選ぶ』という行動がキーワードになってる。」
「だから地域にもブランドが必要だということですね。」
「うん、ただしブランドと言っても、派手なキャッチコピーをつくることではないんやで。」
「はい、ではどういう行動をすれば?」
「その地域にしかない価値を見つけること。」
「そして、それを住民自身が誇りに思えるようにすること。」
「さらに、その価値を外の人にも伝える。」
「なるほど。」
【ないもの探しをやめる】
「地域のブランディングで、よくある問題がある。」
「何ですか?」
「『うちには何もない』と言ってしまうこと。」
「よくありますね。」
「都会には有名な観光地がある。」
「うちにはない。」
「有名な店もない。」
「ない。」
「大きな企業もない。」
「ない。」
「だから、何もない。」
「でも、本当にそうかな?」
「……。」
「その地域で暮らしている人にとって当たり前すぎて、見えていないものがあるかもしれないよね。」
「それを探すんですね。」
「そう。」
「ここでも『わからないことはお客様に訊け』なんですね。」
「うん、そうやね。」
【ないものではなく、あるものを見よ】
私はホワイトボードに大きく書いた。
ないものを数える
↓
あるものを探す。
「これは会社にも学校にも地域にも、すべてのものに共通する。」
「売上が減った。」
「人が採れない。」
「生徒が減った。」
「人口が減った。」
「そういう『ない』に目を奪われると、前向きな発想が出にくうなってくるやろ。」
「だから、いったん視点を変えるんよ。」
「自分たちには何がある?」
「何を積み重ねてきた?」
「誰に信頼されている?」
「何を喜んでもらっている?」
「何を相談されている?」
「そこを見る。」
【弱みも見方を変えれば価値になる】
「先生。」
「何?」
「でも、どうしても弱みしか見つからない場合は?」
「弱みを逆から見てみるんよ。」
「逆から?」
「そう。」
「例えば?」
「会社が小さい。」
「それは弱みですよね。」
「でも、小さいから社長が直接お客様と話せる。」
「……。」
「大企業より意思決定が早い。」
「確かに。」
「社員同士の距離も近い。」
「それもあります。」
「つまり、『小さい』という事実そのものは変わらなくても、見方を変えると価値になることがある。」
「固定観念を外せば、そこに競合相手の中でのオンリーワンが見えてくるかもしれないんや。」
「なるほど。」
「そう、これも『逆転ブランディング』の重要な発想の一つやね。」
―続くー




