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小説-36-「近大マグロ仕掛人の逆転ブランディング」

2026年09月20日 コラム

―前回から続くー

第五章 ~総括編~

【弱みを隠すのではなく、意味を変える 】
「大企業にはできないことが、中小企業にはできる。」
「中小企業にはできないことが、大企業にはできる。」
「どちらが優れているという話ではない。」
「自分たちの特徴を、どう価値に変えるか。」
「そこが大切。」

「だから、弱みを無理に隠す必要はない。」
「むしろ?」
「『これは、見方を変えたら個性=オンリーワンという強みにならないか?』と考えてみる。」

【逆転ブランディングとは】
「先生。」
「はい。」
「だんだん、『逆転ブランディング』の意味が分かってきました。」

「どんな意味やと思う?」
美咲は少し考えてから答えた。

「普通なら『弱み』だと思うことを、逆の角度から見て『強み』にならないかを考えてみる。」
「うん。」
「『売れない』と思ったら、理由を自分で決めつけるのではなく、なぜ売れないのかをお客様に聞く。」
「うん、そうやね。つまり常識的な面でばかり見るのではなく、違う見方はないか、お客さんに訊いてみるということやね。」
「はい。」

「つまり、『技術があるのに評価されない』のなら、それをどう伝えれば価値になるのかをお客様の知恵を借りながら考えるんですね。」
「そうやね。」

「『人が来ない』なら、人が来るための理由を考える。」
「そう。」

「つまり、問題そのものをなくそうとするだけじゃなくて、問題の見方を変える。」
「問題を逆の面から見て、それが強みになる方法を徹底的に探り出していくんですね。」
「そして、それが『逆転』という意味だったんですね。」

私はうなずいた。
「ようやくタイトルの意味が分かってきたね。」
「常識の裏側に活路は必ずあるということやな。」

【近大マグロも、最初は「逆転」だった】
「考えてみれば、近大マグロもそうやった。」
「養殖だから価値が低い……。これが、当時の常識だったんですよね。」

「そう。そこで、『養殖』であることを隠すのではなく、そこに別の意味を与えた。」
「それが『大卒マグロ』ですね。」
「そう言うこと。」

私は当時を振り返りながら言葉を続けた。
「世界初の完全養殖という事実だけではなく、そこに至るまでの研究者たちの努力や、長い年月をかけた挑戦のストーリーを伝えた。」

「でも、ここまでは、ある意味では普通のプロモーションだったということですよね。」
「そうやね。学術的には大きなインパクトがあった。でも、それだけでは市場には十分に響かなかった。」

「そこで、『単なる養殖マグロ』という評価から、さらに違う見方はできないか。お客さんに聞きながら、徹底的に探っていった。」
「そして、たった一人のお客様の言葉が、大きなヒントになった。」

「それまで誰も気づかなかった『養殖マグロ』の新しい見方。『養殖だから安い』ではなく、『大学で育ったマグロだからこそ価値がある』――そこから『大卒マグロ』という、まったく違う角度のブランドが生まれた。」

「そう。そして、卒業証書までつけて話題性をつくっていったんや。」

「なるほど。『売れないから安くする』という普通の方法を選ぶのではなく、むしろ『価値を高めて、高く売る』という方法を、その理由とともに追求したんですね。」
「そういうことやね。」

「これが、逆転ブランディング!」
「その通りや。」

【そして、ACTを回し続ける】
「でも、一度逆転の発想ができたら、それで終わりではない。」
「またACT?」
「そう。」

Action
まずやってみる。

Challenge
常識を疑ってみる。

Think
なぜなのかを考える。

そして、
またAction。
「これを繰り返す。」

「だからブランドは完成しない。」
「育っていくものなんですね。」
「そう。」
「お客様の声を聞きながら。」
「そう。」
「時代の変化を見ながら。」
「そう。」
「社員と一緒に。」
「そう。」

【美咲の「選ばれる理由」】
「先生。」
「ん、なに?。」

「私、最初にここへ来たときは、会社を何とか立て直さなきゃと思っていました。」
「うん。」
「売上を上げる。」
「うん。」
「社員を採用する。」
「うん。」
「新しい設備を入れる。」
「うん。」
「そればかり考えていました。」

「それが悪いわけではない。」
「でも、今は少し違います。」

「どう違う?」
「まず、『うちの会社は、なぜ選ばれているんだろう』と考えるようになりました。」
「うん。」
「そして、お客様に聞いてみた。」
「うん。」
「社員にも聞いた。」
「うん。」
「すると、自分では見えていなかったものが見えてきた。」

「それが、ブランドの種だった。」
「そうです。」
美咲が笑った。

「会社を変える前に、自分の見方を変える必要があったんですね。」
私は少し笑い返した。

「それが、一番の『逆転』かもしれんな。」

―続くー