-2- 近大マグロ仕掛人のブランド再成塾/私立大学編
2026年10月02日
コラム
~前回までのあらすじ~
学生募集に悩む某私立大学の理事長から相談を受けた大久保。そこで見えてきたのは、「魅力がない」のではなく、「選ばれる理由が見えていない」という現実だった。大久保は問いかける。「この大学が五十年以上、地域に必要とされてきた理由は何なのか?」―その答えを探すことから、大学再生の物語が始まる・・・

私は、近大マグロのことを思い出していた。
近畿大学の水産研究所がクロマグロの研究に取り組み始めたのは、1970年。
完全養殖までの道のりは、決して順調ではなかった。
研究費の問題もあった。
大学本部からは、研究所の赤字が経営全体へ及ぼす影響を心配する声もあった。
それでも研究は続いた。
そして、長い年月をかけて、完全養殖クロマグロという世界で初の大きな成果にたどり着いた。
でも、そこで終わりではなかった。
「完全養殖」という技術ができたからといって、自動的に「近大マグロ」というブランドが生まれたわけではない。
技術には技術の価値がある。
研究には研究の価値がある。
しかし、
その価値を、相手に伝わる形に変えなければ、ブランドにはならない。
私は確信している。大学にも同じことが言えると…。
大学には、長い歴史がある。
研究がある。
教育がある。
教員がいる。
学生がいる。
卒業生がいる。
地域とのつながりがある。
それらは、大学にとって当たり前すぎるものになっている。
だからこそ、
「それが、誰にとって、どんな価値なのか」
を改めて考えなければならない。
「先生」
理事長の声で、我に返った。
「えっ、何でしょう?」
「大学のブランドって、やっぱり必要なんでしょうかね?」
私は少し笑った。
「理事長、逆ですよ」
「逆?」
「もう、すでにブランドはあるんです」
「え?」
「ブランドというのは、大学が『うちはブランド大学です』と言って出来るものではありません」
私は窓の外を見た。
「高校生、保護者、卒業生、地域の人、企業……。その人たちの頭の中に、『この大学って、こういう大学だよね』というイメージがあります」
「はあ」
「それが、ブランドなんです」
理事長は黙って聞いている。
「問題は、そのイメージが大学側の考えているものと一致しているかどうかです」
「……ほう」
「大学側が『資格に強い大学』だと思っていても、高校生が『先生が親身になってくれる大学』だと思っているかもしれない」
「まあ、そうだね」
「逆に、大学側が何とも思っていないことを、高校生が大きな魅力だと思っている可能性もあります」
理事長の表情が少し変わった。
「それは、つまり……」
「我々が気づいていない魅力があるかもしれないということですかね?」
「はい、私はあると思いますよ。いや、絶対あるはずです」
「ほう、それはなぜ?」
「五十年、続いてきたからですよ」
私は即座にそう答えた。
その日の帰り際、私は理事長に一つお願いをした。
「理事長、次回までに、大学のことをよく知っている人を集めてもらえますか?」
「教授ですか?」
「教授だけではありません」
「では、職員?」
「ええ、職員もお願いします」
「他には?」
私は答えた。
「学生です」
「学生?」
「はい」
理事長は少し驚いた顔をした。
「学生に何を聞くんです?」
私は笑って言った。
「簡単なことです」
そして、こう続けた。
「なぜ、この大学を選んだのか?」
理事長は少し考えてから、
「それを聞くんですか?」
と言った。
「はい」
「しかし、学生募集の資料には、もうアンケート結果がありますよ」
「それとは違います」
「どう違うんです?」
私は答えた。
「大学が“聞きたい”ことではなく、学生が“話したい”ことを聞くんです」
理事長は黙った。
そして、しばらくして笑った。
「先生、なんだか面白くなってきましたな」
「ええ、私もそう思っています」
私は大学を後にした。
夕方のキャンパスには、まだ学生たちの姿があった。
友達と話しながら歩く学生。
クラブ活動に向かう学生。
図書館へ入っていく学生。
それぞれが、この大学で何かを学び、何かを経験している。
その一人ひとりの中に、
この大学が選ばれている理由
がきっとあるはずだ。。
私はそう思いながら、キャンパスを出た。
大学が学生募集に苦しんでいると聞くと、
「少子化だから仕方がない」
という言葉がまず最初に出てくる。
確かに、少子化は大きな環境変化だ。
一つの大学だけでは変えられない。
しかし、
「少子化だから学生が集まらない」
という言葉だけで終わってしまったら、大学側は何もできなくなる。
近大マグロの時もそうだった。
「予期せぬウィルス病が発生したから」
「バブル崩壊で魚価が下がっているから・・・」
自分たちだけでは解決しようもない理由をいくつも挙げてはため息をつくばかりだった。
だから、私はそうは思わない。
学生の数が減っているからこそ。
「その中で、なぜ自分たちの大学を選んでもらうのか」
を考える必要がある。
そして、その答えは、大学の会議室で見つけ出せるものではない。
大学の中にいる人。
卒業した人。
地域の人。
企業。
保護者。
高校の先生や塾の講師
そして何より、
実際にその大学を選んだ学生。
その人たちの言葉の中に、ヒントがある。
私は近大マグロのブランドづくりを通して、
「わからないことは、お客さんに訊け」
ということを何度も学んできた。
大学にとってのお客さんとは誰なのか。
この問いについても、少し考えてみる必要があるだろう。
高校生なのか。
保護者なのか。
企業なのか。
地域なのか。
あるいは、そのすべてなのか。
その答えを探すことから、この大学のブランド再生が始まる。
そして、次回。
私は学生たちに、
「なぜ、この大学を選んだの?」
と聞くことになる。
そこで出てきた答えは、理事長が予想していたものとは、まったく違っていた。
【ブランド再生塾とは】
会社でも、大学でも、同じことが言える。
売上が落ちた。
学生が集まらない。
お客さんが減った。
だからといって、すぐに「新しいものをつくらなければ」と考える必要はない。
まず、
「今、自分たちは、誰から、何を評価されているのか?」
を見る。
そのためには、自分たちだけで考えない。
相手に聞く。
そして、相手の言葉の中から、自分たちが気づいていなかった価値を見つける。
ブランド再生の第一歩は、
「何を売るか」ではなく、
「なぜ選ばれているのか」を知ること。
大学も、例外ではない。
五十年続いてきた大学には、
五十年間続いてきた理由がある。
その理由を見つけ直すことができれば、
「学生が集まらない大学」から、
「この大学だから学びたい」と言われる大学へ。
変わる可能性は、まだ残されている。
私は、そう考えている。
次回は、いよいよ学生への聞き取りに入ります。
「なぜ、この大学を選んだの?」
果たして学生たちの返答は・・・。
~続く~
学生募集に悩む某私立大学の理事長から相談を受けた大久保。そこで見えてきたのは、「魅力がない」のではなく、「選ばれる理由が見えていない」という現実だった。大久保は問いかける。「この大学が五十年以上、地域に必要とされてきた理由は何なのか?」―その答えを探すことから、大学再生の物語が始まる・・・

私は、近大マグロのことを思い出していた。
近畿大学の水産研究所がクロマグロの研究に取り組み始めたのは、1970年。
完全養殖までの道のりは、決して順調ではなかった。
研究費の問題もあった。
大学本部からは、研究所の赤字が経営全体へ及ぼす影響を心配する声もあった。
それでも研究は続いた。
そして、長い年月をかけて、完全養殖クロマグロという世界で初の大きな成果にたどり着いた。
でも、そこで終わりではなかった。
「完全養殖」という技術ができたからといって、自動的に「近大マグロ」というブランドが生まれたわけではない。
技術には技術の価値がある。
研究には研究の価値がある。
しかし、
その価値を、相手に伝わる形に変えなければ、ブランドにはならない。
私は確信している。大学にも同じことが言えると…。
大学には、長い歴史がある。
研究がある。
教育がある。
教員がいる。
学生がいる。
卒業生がいる。
地域とのつながりがある。
それらは、大学にとって当たり前すぎるものになっている。
だからこそ、
「それが、誰にとって、どんな価値なのか」
を改めて考えなければならない。
「先生」
理事長の声で、我に返った。
「えっ、何でしょう?」
「大学のブランドって、やっぱり必要なんでしょうかね?」
私は少し笑った。
「理事長、逆ですよ」
「逆?」
「もう、すでにブランドはあるんです」
「え?」
「ブランドというのは、大学が『うちはブランド大学です』と言って出来るものではありません」
私は窓の外を見た。
「高校生、保護者、卒業生、地域の人、企業……。その人たちの頭の中に、『この大学って、こういう大学だよね』というイメージがあります」
「はあ」
「それが、ブランドなんです」
理事長は黙って聞いている。
「問題は、そのイメージが大学側の考えているものと一致しているかどうかです」
「……ほう」
「大学側が『資格に強い大学』だと思っていても、高校生が『先生が親身になってくれる大学』だと思っているかもしれない」
「まあ、そうだね」
「逆に、大学側が何とも思っていないことを、高校生が大きな魅力だと思っている可能性もあります」
理事長の表情が少し変わった。
「それは、つまり……」
「我々が気づいていない魅力があるかもしれないということですかね?」
「はい、私はあると思いますよ。いや、絶対あるはずです」
「ほう、それはなぜ?」
「五十年、続いてきたからですよ」
私は即座にそう答えた。
その日の帰り際、私は理事長に一つお願いをした。
「理事長、次回までに、大学のことをよく知っている人を集めてもらえますか?」
「教授ですか?」
「教授だけではありません」
「では、職員?」
「ええ、職員もお願いします」
「他には?」
私は答えた。
「学生です」
「学生?」
「はい」
理事長は少し驚いた顔をした。
「学生に何を聞くんです?」
私は笑って言った。
「簡単なことです」
そして、こう続けた。
「なぜ、この大学を選んだのか?」
理事長は少し考えてから、
「それを聞くんですか?」
と言った。
「はい」
「しかし、学生募集の資料には、もうアンケート結果がありますよ」
「それとは違います」
「どう違うんです?」
私は答えた。
「大学が“聞きたい”ことではなく、学生が“話したい”ことを聞くんです」
理事長は黙った。
そして、しばらくして笑った。
「先生、なんだか面白くなってきましたな」
「ええ、私もそう思っています」
私は大学を後にした。
夕方のキャンパスには、まだ学生たちの姿があった。
友達と話しながら歩く学生。
クラブ活動に向かう学生。
図書館へ入っていく学生。
それぞれが、この大学で何かを学び、何かを経験している。
その一人ひとりの中に、
この大学が選ばれている理由
がきっとあるはずだ。。
私はそう思いながら、キャンパスを出た。
大学が学生募集に苦しんでいると聞くと、
「少子化だから仕方がない」
という言葉がまず最初に出てくる。
確かに、少子化は大きな環境変化だ。
一つの大学だけでは変えられない。
しかし、
「少子化だから学生が集まらない」
という言葉だけで終わってしまったら、大学側は何もできなくなる。
近大マグロの時もそうだった。
「予期せぬウィルス病が発生したから」
「バブル崩壊で魚価が下がっているから・・・」
自分たちだけでは解決しようもない理由をいくつも挙げてはため息をつくばかりだった。
だから、私はそうは思わない。
学生の数が減っているからこそ。
「その中で、なぜ自分たちの大学を選んでもらうのか」
を考える必要がある。
そして、その答えは、大学の会議室で見つけ出せるものではない。
大学の中にいる人。
卒業した人。
地域の人。
企業。
保護者。
高校の先生や塾の講師
そして何より、
実際にその大学を選んだ学生。
その人たちの言葉の中に、ヒントがある。
私は近大マグロのブランドづくりを通して、
「わからないことは、お客さんに訊け」
ということを何度も学んできた。
大学にとってのお客さんとは誰なのか。
この問いについても、少し考えてみる必要があるだろう。
高校生なのか。
保護者なのか。
企業なのか。
地域なのか。
あるいは、そのすべてなのか。
その答えを探すことから、この大学のブランド再生が始まる。
そして、次回。
私は学生たちに、
「なぜ、この大学を選んだの?」
と聞くことになる。
そこで出てきた答えは、理事長が予想していたものとは、まったく違っていた。
【ブランド再生塾とは】
会社でも、大学でも、同じことが言える。
売上が落ちた。
学生が集まらない。
お客さんが減った。
だからといって、すぐに「新しいものをつくらなければ」と考える必要はない。
まず、
「今、自分たちは、誰から、何を評価されているのか?」
を見る。
そのためには、自分たちだけで考えない。
相手に聞く。
そして、相手の言葉の中から、自分たちが気づいていなかった価値を見つける。
ブランド再生の第一歩は、
「何を売るか」ではなく、
「なぜ選ばれているのか」を知ること。
大学も、例外ではない。
五十年続いてきた大学には、
五十年間続いてきた理由がある。
その理由を見つけ直すことができれば、
「学生が集まらない大学」から、
「この大学だから学びたい」と言われる大学へ。
変わる可能性は、まだ残されている。
私は、そう考えている。
次回は、いよいよ学生への聞き取りに入ります。
「なぜ、この大学を選んだの?」
果たして学生たちの返答は・・・。
~続く~




