-4- 近大マグロ仕掛人のブランド再生塾/私立大学編
2026年10月05日
コラム

―前回から続くー
【ブランドは「外からつくるもの」ではない】
帰り際、理事長が私に聞いた。
「先生」
「はい」
「今日の話を聞いて、少しだけ希望が見えてきましたわ」
「それはよかったです」
「でも、まだ学生募集の数字が改善したわけではありませんよね」
「そうですね」
私は大学の特殊性を強調するために言葉を続けた。
「大学というところは一般の企業と違って、結果が見えるのが学生募集の一時期だけですものね」
「そうなんですが、なぜか少し気持ちが軽くなりました」
私は笑った。
「理事長、その理由は簡単ですよ」
「ほう、何ですか?」
「自分たちの大学に、まだ可能性があるとわかったからですよ」
理事長は、しばらく黙っていた。
そして、
「なるほど……」
と呟いた。
大学経営が厳しくなると、人はどうしても「足りないもの」に目を向けます。
学生が足りない。
志願者が足りない。
広報が足りない。
知名度が足りない。
予算が足りない。
人材が足りない。
だから、新しいものを足そうとする。
でも、ときには逆です。
足す前に、
今あるものを見直す。
そこから始めてもいい。
私は、これをACTブランディングの最初の一歩だと考えています。
【選ばれる理由は誰かが教えてくれる】
ACTブランディングでは、最初から答えがあるわけではない。
「この大学の強みはこれだ」
と、経営者やコンサルタントが勝手に決めることもない。
まず、現場を見る。
人に聞く。
事実を集める。
そして、そこから共通点を探す。
私はこれを、
「現場に答えを聞く」
と言っている。
以前、私はよく、
「わからないことは、お客さんに訊け」
と言っていた。
今回の大学なら、
「わからないことは、学生に訊け」だ。
大学のことを一番よく知っているのは、大学経営者だけではない。
毎日大学に通っている学生。
子どもを大学に送り出している保護者。
卒業して社会で活躍している卒業生。
学生と毎日向き合っている教職員。
そこには、大学自身が気づいていない価値が眠っていることがある。
だから、私は理事長に言った。
「まだ結論を出すのは早いですよ」
「ああ、そうですね」
「これから、各方面にアンテナをたてて、どんどん聞いていきましょう」
「そうだね。わかりました」
「そして、見つけましょう」
私は少し間を置いて続けた。
「この大学だからこそ、選ばれる理由を」
その日の帰り道。
大学の門を出ると、学生たちが笑いながら歩いていた。
友達と話しながら帰る学生。
スマートフォンを見ながら歩く学生。
クラブ活動に向かう学生。
教員と話をしている学生。
私は、その光景を少し離れたところから眺めていた。
そして思った。
大学のブランドは、校門や建物にあるのではない。
パンフレットの中にあるのでもない。
広告のキャッチコピーだけでつくれるものでもない。
毎日の学生生活。
教員、職員、その他関係するすべてのスタッフたちとの会話。
友達とのつながり。
困ったときに誰かが声をかけてくれること。
そんな一つひとつの積み重ねの中に、
「この大学らしさ」
がある。
そして、その「らしさ」に気づいたとき、
それは初めて、
「選ばれる理由」になるのだ。
私は大学を振り返った。
まだまだ、これからだ。
学生募集の数字は、すぐには表れないかもしれない。
少子化という大きな流れも変えられない。
競合する大学もなくならない。
それでも、
「この大学だから学びたい」
と言ってくれる学生を増やすことはきっとできるはずだ。
そのためには、まず、
自分たちが何者なのかを知ること。
そして、
誰に、何を価値として感じてもらっているのかを知ること。
・・・ようやくブランディングのスタートラインに立ったばかりだった。
次回は、学生だけではなく、
「保護者は、この大学をどう見ているのか?」
を聞いてみる。
学生本人が感じる価値と、保護者が感じる価値は同じなのか。
それとも、まったく違うのか。
そして、聞き取りを進める中で、私たちはこの大学が長年積み重ねてきた、ある「意外な強み」に気づくことになる。
大学の中にいる人たちが、
「そんなことが強みになるの?」
と驚くようなものだった。
「選ばれる理由」は、案外、自分たちが一番気づいていないところにある。
そのことを、私は次の聞き取りで改めて実感することになる。
~続く~
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