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-9- 近大マグロ仕掛人のブランド再生塾/私立大学編

2026年10月10日 コラム


~前回から続く~

「・・・ひとつ大きな問題があります」
「はあ、どんな問題ですか?」
理事長はため息をついてからこう答えた。
「うちの教職員全員が、この考え方に賛成してくれるとは限りません」

「ほう、それはどうしてですか?」
「今でも、先生方の仕事は大変なんですよ」
「ええ、そうでしょうね」
「授業や論文作成、それに学生募集や入試業務、さらに就職支援もある。そんなところに『もっと学生の話を聞け』と言ったら……」

理事長は苦笑した。
「『これ以上、仕事を増やすんですか?』と反発されるかもしれんですねえ」
私は頷いた。
「そうですね、それは大事な問題ですね」
「どうしたらいいですか?」

私は少し考えた。
「仕事を増やす、と思わせるようではだめです」
「では?」
「まず、教職員自身に聞いてみませんか」
「また聞くんですか?」
「ええ、何度でも聞きますし、この問題は当人たちに聞くしかないんですよ」

理事長は少し皮肉っぽく言った。
「先生は何でも『聞きましょう』ですねえ」
「はい、答えは現場にあると思っていますから」

理事長があきらめたように笑いながら言った。
「わかりました」

【教職員会議で起きたこと】
数日後。
教職員を集めた会議が開かれ、重々しい雰囲気の中で、まず最初に理事長が現状の問題について説明した。

「少子化による受験生の減少、大学間競争の激化、教育内容と社会ニーズのずれ、経営改革の遅れなど、4年制大学を取り巻く環境は厳しさを増しています」
「こうした時代を勝ち抜くために必要なのは、単なる学生募集や広告宣伝ではなく、本学ならではの価値を発見し、『なぜ、この大学を選ぶのか』という理由を明確にすること。つまり、未来を切り拓く鍵は、ブランディングにあると言えるのです」

教職員は静かに聞いていた。
「その中で、これまで学生、保護者、卒業生から話を聞きいてきました」

ざわつく。
理事長は続けた。
「その結果、『学生を放っておかない』『先生に相談しやすい』『人との距離が近い』という声が多く出ました」

すると、後ろのほうから一人の教員が言った。
「でも、それって普通じゃないですか?」

私は思わず笑った。
「そうですよね」
教室に少し笑いが起きた。

私は立ち上がった。
「先生、ありがとうございます」
「え?」
「その言葉が、今日一番大事なんです」

私はホワイトボードに、
「普通」
と書いた。

「この大学の先生方にとっては普通なんです」
そして、その下に、
「でも、学生にとっては?」
と書いた。

教室が静かになった。
「学生に聞いてみたら、『放っておかれない』『相談できる』『安心する』と言いました」
「……」
「保護者も同じことを言いました」
「……」
「卒業生も言いました」

私は、そこで一度ペンを置いた。
「みなさんにとっての『普通』が、外から見れば『価値』なのかもしれんのですよ」

誰も何も言わなかった。
でも、私は感じていた。
少しずつ、教職員の表情が変わっている。

【一人の先生が手を挙げた】
しばらくして、一人の若い教員が手を挙げた。
「いいですか?」
「どうぞ」

「私、思い出したことがあります」
「何ですか?」
「去年、学生が一人、授業に来なくなったんです」
「はい」
「最初は、単に休んでいるだけだと思っていました」
「でも?」
「何日かして、気になったので連絡しました」
「すると?」
「実は、家庭のことで悩んでいたことがわかりました」

会議室が静かになった。
「その学生は、その後、大学を辞めることも考えていたんです」
「……」
「でも、先生方と相談して、なんとか続けることができました」

その若い教員は少し照れながら言った。
「私としては、普通に声をかけただけなんですけどね」

私は、その教員に言った。
「それですよ」
「え?」
「それが、この大学の価値なんじゃないですか?」

先生は黙った。
そして、小さく頷いた。

【強みは特別なことではない】
私は教職員に向けて話した。
「一般に、ブランディングというと、何か特別なことをしなければならないと思いがちです」
「でも、本当はそこじゃない」

~続く~

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