-10- 近大マグロ仕掛人のブランド再生塾/私立大学編
2026年10月11日
コラム

~前回から続く~
「毎日やっていること。当たり前に続けていること。誰にも褒められなくても続けていること」
「そこにこそ、その組織らしさがあるんです。そして、先生方のその『らしさ』は、簡単には真似できません」
「新しい施設は、お金があれば作れます」
「新しい広告も、それらしいキャッチコピーも作れます」
「でも、『困っている学生に自然に声をかける』、『学生の変化に気づく』、『卒業してからも相談に乗る』という文化は、一日で作ることはできません」
「それは、長い年月をかけて積み重ねてきたものだからです」
私は言った。
「だからこそ、これは強いんです」
【理事長が口にした「ブランド」という言葉】
会議が終わったあと。
理事長が私のところへやってきた。
「先生」
「はい」
「今日は同席いただいてありがとうございました。私ね、少しわかってきた気がしますわ」
「どんなことですか?」
「ブランディングでまずやらなくてはいけないことは、何か新しいものを作ることじゃないんですねえ」
「はい」
「自分たちが長年やってきたことの中から、『これは私たちらしい』というものを見つける」
「そうです」
「そして、それを相手に伝わる形にする」
「ええ、その通りです!」
理事長は少し笑った。
「なんだか、大学経営の見方が変わりますね」
私は答えた。
「ブランディングは、経営そのものですから」
「経営そのもの……」
「はい」
ブランドをつくるということは広告ではない。
ロゴでもない。
パンフレットでもない。
まして、きれいなキャッチコピーだけでもない。
毎日の行動。
人との関係。
積み重ね。
そして、それをどう未来につなげるか。
それらすべてがブランドになっていく。
【この大学だから学びたいへの第一歩】
帰り際、私は理事長に言った。
「理事長」
「ええ」
「私、最初に言いましたよね」
「え、何でしたかね?」
「『この大学だから学びたい』と言われる大学にしたい、と」
「ああ、そうでしたね」
「そのためには、まず『この大学だから』の中身を知らないとダメですよね」
理事長は頷いた。
「ええ」
「今回、いろんな方にヒアリングさせていただいたおかげで少し見えてきましたよ」
私と理事長は同時にホワイトボードを見た。
そこには、学生、保護者、卒業生、教職員から集めた言葉が残っていた。
そして、その中心には、
人を放っておかない
と書かれている。
「まだ、これが最終的な答えとは限りませんけどね」
私はそう付け加えた。
「でも、これが本当の強みなのかもしれない」
理事長は頷いた。
「そして、ここからが本番です」
「本番?」
「はい」
「何をするんです?」
私はホワイトボードを指した。
「この強みを、どうやって『選ばれる理由』に変えていくのか」
理事長の顔が少し引き締まった。
「そこが、ブランディングなんですね」
「そうです」
帰り道。
私は駅へ向かいながら、今日のことを振り返っていた。
学生の言葉。
保護者の言葉。
卒業生の言葉。
教職員の言葉。
それぞれは、最初はバラバラだった。
でも、一つずつ重ねていくと、少しずつ一つの姿が見えてきた。
大学が自分たちでは気づいていなかった、
「らしさ」
である。
そして、私は改めて思った。
ブランドづくりで一番大切なのは、
「何を売るか」
ではない。
「何を言うか」
でもない。
まして、
「どう見せるか」
だけでもない。
その前に、
「私たちは、なぜ選ばれているのか?」
を知ることだ。
その答えは、会議室の中だけでは見つからない。
経営者の頭の中だけでもない。
まして、広告会社に丸投げして見つかるものでもない。
現場に行く。
人に聞く。
事実を見る。
考える。
そして、もう一度現場に戻る。
私は、それを繰り返してきた。
近大マグロのときもそうだった。
「こうだろう」と決めつけず、
「実際にはどうなんだ?」
と現場に問い続けた。
そして、今回も同じだ。
わからないことは、現場に聞け。
ただ、それだけなのだ。
その夜。
私の携帯電話が鳴った。理事長からだった。
「先生ですか。夜分にすみません」
「いえいえ」
「一つ、お願いがあります」
「何ですか?」
「次は、大学の中だけじゃなくて、外の人にも聞いてみたいんですが」
「外の人?」
「ええ、高校の先生方です」
私は強く反応した。
「高校の先生!」
「はい」
「いいですね。でも、なぜそう思われました?」
理事長は答えた。
「高校生が、どんな理由で大学を選ぶのか。その前段階を知りたいんです」
私は笑った。
「ああ、それすごくいいですね」
「それから……」
「まだあります?」
「地域の企業にも聞いてみたいんですわ」
「企業?」
「卒業生を採用してくれている企業です」
私は電話の向こうで、理事長の声が少しずつ変わっていくのを感じた。
最初に会ったときの、
「学生募集を何とかしなければ」
という焦りではない。
今は、
「この大学には何があるのだろう」
という探究心が出ている。
私は、それが大切だと思った。
ブランディングは、一度答えを出して終わるものではない。
問い続けること。
それが、ブランドを育てる。
「理事長」
「はい」
「是非やりましょう!」
「ええ、よろしくお願いします!」
電話を切った。
私は一人、夜の街を歩きながら思った。
大学は、まだ変われる。
いや。
正確には、
大学そのものが持っている価値に、まだ気づき切っていないだけなのかもしれない。
そして、次回。
私たちは高校の先生に話を聞くことになる。
そこで出てきたのは、
「この大学は、こんな大学だと思っています」
という、大学側が想像していなかった評価だった。
しかも、その言葉は、
「人を放っておかない」
という今まで見えてきた強みとは、少し違っていた。
「先生、それって……うちの大学の強みなんですか?」
理事長がそう尋ねるほどの意外な言葉。
しかし、その言葉を掘り下げていくと、私たちは大学の「もう一つの顔」に気づくことになる。
大学の強みは、大学の中だけでは完成しない。
外から見たときに初めて見えてくる「価値」がある。
次回は、その「外から見た大学」に迫ってみたいと思う。
~続く~
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