MAIL

BLOG

ブログ

-12- 近大マグロ仕掛人のブランド再生塾/私立大学編

2026年10月14日 コラム


~前回から続く~

「そうですね。例えば、卒業生から『大学の先生が親身になって相談に乗ってくれた』という話を聞くことはあります。でも、それは卒業生個人の感想として受け止められがちなので、大学全体の特徴として認識されるところまでは、なかなかいっていないように思います」

私は、ゆっくりとうなずいた。
「それは、すごく大事なご指摘ですね」

【偏差値だけでは見えないもの】
山本先生は、机の上に置かれた大学案内を手に取りながら、さらにこう続けた。
「実は、私たちも、本当は偏差値だけで大学を勧めたいわけではないんです」
「といいますと?」
理事長が尋ねた。

「生徒一人ひとりの性格や将来の希望に合った大学を選んでほしいと思っています。教育内容はどうなのか、先生方はどんな指導をしてくれるのか、入学してからどんな成長ができるのか。そういう大学の中身を理解したうえで、生徒に勧めたいんです」
「それは、当然ですよね」
理事長が、静かにうなずいた。

「ところが、実際には、それぞれの大学の中身を詳しく知るのは、なかなか難しいんです。大学案内やホームページを見ても、似たような表現が並んでいることがありますし、オープンキャンパスに参加しただけでは、入学後の日常まで十分にわかるわけではありません」
山本先生は、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そうなると、どうしても偏差値や知名度、就職実績といった、比較しやすい情報を判断材料にせざるを得ないんです。本当は、それだけで大学を選んでほしくないんですけどね」

私は、思わず身を乗り出した。
「なるほど。先生方が偏差値を重視しているというより、大学の本当の違いがわからないときに、偏差値が判断のよりどころになってしまうわけですね」

「そうなんです。もちろん、偏差値も進路指導に必要な情報の一つです。ただ、それだけでは、その大学がその生徒に本当に合っているかどうかまではわかりませんから」

理事長は、しばらく言葉を失っていた。
大学の中では、教職員が学生のためにさまざまな努力を重ねている。学生の相談に乗り、一人ひとりの成長を支え、困難に直面した学生を支援している。
しかし、その努力や実態が高校の先生に十分に伝わっていなければ、進路指導の場面で判断材料として活用してもらうことは難しい。

私は、理事長に向かって言った。
「大学の中に価値があることと、その価値が外の人に伝わっていることは、別の問題なんですよね」

理事長は、ゆっくりとうなずいた。
「つまり、我々は教育の中身を充実させるだけでは十分ではない。その中身が、どんな生徒に、どんな価値をもたらすのかまで、外の人にわかるように伝えなければならない、ということですな」

「その通りです。しかも、大学が一方的に『うちは面倒見がいい大学です』と説明するだけでは足りません。実際にどんな場面で学生を支えているのか、その結果、学生がどう成長したのか。高校の先生が生徒や保護者に具体的に説明できる情報にすることが大切なんです」

この二人の会話を聞いていた山本先生は、深くうなずいた。
「そういう情報があれば、私たちも生徒に大学を勧めるときの選択肢が広がります。偏差値だけでは見えてこない、その生徒に合った大学を紹介できるようになると思います」

私は、その言葉を聞いて確信した。
大学が本当に取り組むべきなのは、偏差値競争から抜け出そうと声高に主張することではない。
偏差値以外にも、生徒や保護者、高校の先生が大学を選ぶための確かな判断材料を提供することなのだ。

【選ばれる理由は、すでにあるのかもしれない】
私は、話を少し変えた。
「山本先生は、もし本学を生徒に勧めるとしたら、どんな生徒に勧めたいと思われますか?」

山本先生は、しばらく考えてから答えた。
「そうですね。自分の目標がはっきりしている生徒はもちろんですが、まだ将来の目標が定まっていない生徒にも、合う可能性はあると思います」

「それは、どうしてですか?」

「自分一人で何でも決めて、どんどん進んでいける生徒ばかりではありませんから。大学生活の中で先生方と相談しながら、自分の進む道を見つけていく。そういう学び方ができる環境なら、本人にとって大きな意味があると思うんです」

私は、理事長の顔を見た。
理事長も、何かを確かめるように私を見返した。
学生たちの話を聞いたときに感じたことが、ここでもつながり始めていた。

「山本先生、最後にもう一つだけ、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」

「もし、本学に一つだけ改善してほしいことがあるとすれば、何でしょうか?」

山本先生は少し困ったように笑った。
「一つだけ、ですか。難しい質問ですね」
しばらく考えたあと、こう答えた。
「やはり、大学の特色をもっとわかりやすく伝えてほしいですね。単に『面倒見がよい大学です』と言うだけではなく、実際にどんな場面で、どのように学生を支えているのか。学生がどう変わり、どう成長しているのか。そうした具体的な話があれば、私たちも生徒に説明しやすくなります」

「具体的な話、ですか」

「はい。大学の良さは、大学の中にいる方々にとっては当たり前になっていて、意外と気づきにくいのかもしれません。でも、その良さが実際に学生の成長につながっているのであれば、もっと外に伝えてもいいと思います」

その言葉を聞いた瞬間、私は心の中で小さくうなずいた。
大学に必要なのは、新しい魅力を無理につくることではないのだ。
すでに存在している価値を見つけ、それが誰にとって、どのような意味を持つのかを明らかにすること。そして、その価値が伝わる形に整えることだ。
それこそが、ブランディングの本質だ。

【外から見て、初めて気づく価値】
帰り際、理事長は山本先生に深々と頭を下げた。
「今日は、本当にありがとうございました。大学の中にいるだけでは、なかなか気づけないことを教えていただきましたわ」

「いえいえ。こちらこそわざわざお越しいただきありがとうございました。大学の先生方がどんなことを考えておられるのか、もっと知りたいと思っています。また何かあれば、いつでもお声がけください」

高校を出て、駐車場へ向かう途中、理事長が口を開いた。
「先生、今日は実際にこうやって伺って来てよかったですよ。学生や保護者の話を聞いたときも思いましたが、今回も、大学の中で考えていたこととは少し違いましたね」

「そうですね」

「我々は、教育内容や資格、就職実績など、何を提供しているかを一生懸命説明しようとしていました。でも、高校の先生は、その先にいる生徒のことを考えておられた。そして、大学の中身がわからないから、偏差値に頼らざるを得ないこともある……。これは、我々にとって大きな課題ですわ」

「そう思います。ただ、見方を変えれば、これは大きなチャンスでもあるんです」

「チャンス、ですか?」

「ええ。高校の先生方は、偏差値だけではわからない大学の価値を知りたいと思っておられる。生徒に本当に合った大学を勧めたいと思っておられるんです。つまり、私たちが大学の中にある価値を見つけて、具体的に伝えることができれば、それは先生方にとっても、生徒や保護者にとっても、役立つ情報になるわけです」

理事長は、少し考えてからうなずいた。
「なるほど。大学の宣伝をするというより、大学を選ぶための判断材料を届ける、ということですね」

「その通りです。大学が伝えたいことを並べるのではなく、相手が知りたいことに応える。そこから考える必要があります」

理事長は、しばらく黙って歩いていた。
そして、ふと思い出したように言った。
「学生たちは、困ったときに相談に乗ってくれることを話していましたよね。保護者の方々も、安心して子どもを任せられることを話しておられました。今日の山本先生のお話も、そこにつながっているような気がするんですがね」

「私も、そう思います。ただ、まだ結論は急がんほうがええでしょうね」

「まだ、ほかにも聞く必要があるということですか?」

「そうです。高校の先生は、大学に入る前の生徒を見ておられます。地域の方々は、また違う角度から大学を見ているでしょうし、企業の方々は、卒業生が社会に出てからの姿を見ておられるはずです」

私は、少し間を置いてから続けた。
「いろんな人の話を聞いていくと、同じ大学なのに、それぞれ違う価値が見えてくるかもしれません。その中から、共通して見えてくるものがあれば、それは大学の本当の強みを考えるうえで、大きな手がかりになります」

理事長は、力強くうなずいた。
「大学の価値を、大学の中だけで決めてはいけないんですよね」

「そういうことです。自分たちが何を強みだと思っているかだけでなく、相手が何に価値を感じているか。それを知ることが大切なんです」

私は、近大マグロのブランドづくりに取り組んでいた頃を、改めて思い出していた。
こちらが伝えたいことと、お客さんが知りたいことや求めていることは、必ずしも同じではなかった。
そして、こちらが価値だと思っていたことよりも、相手が何気なく口にした一言の中に、ブランドを変えるヒントが隠れていた。

大学も、きっと同じなのだ。
私たちは、次に地域の方々の話を聞くことにした。
大学は、地域からどのように見られているのか。
そこにもまた、大学自身がまだ気づいていない価値が眠っているかもしれなかった。

~続く~

#オークジェイ
#近大マグロ仕掛人
#大学コンサルティング
#大学ブランディング
#私立大学経営
#大学経営
#大学改革
#学生募集
#大学広報
#少子化対策
#大学再生