-17- 近大マグロ仕掛人のブランド再生塾/私立大学編
2026年10月20日
コラム

【ブランドは、経営の結果を変えていく】
それから数か月が過ぎた。
大学では、教職員による話し合いが続いていた。
学生への聞き取りも改めて行われ、教職員自身が、日頃どのような思いで学生と接しているのかを共有する機会が増えていった。
学生が相談に来るのを待つだけでなく、困っている様子に気づいたら声をかける。学生の話を聞くときには、すぐに答えを与えるのではなく、本人が自分で考え、次の一歩を踏み出せるように支える。
そうした取り組みも、改めて大学全体で確認していった。
同時に、高校の先生方にも大学の教育や学生支援について具体的に知ってもらう機会を設けた。大学案内やホームページの内容も見直し、教育方針を説明するだけでなく、実際に学生がどのように学び、成長しているのかを伝えることに力を入れ始めた。
地域の企業や商店街との連携についても、単発のイベントにとどまらず、学生が地域の課題に触れ、学びを深める機会をつくることが検討された。
ある日、理事長から電話があった。
「先生、少しずつですが、変化が出てきましたよ」
「どんな変化ですか?」
「高校の先生方から、大学の教育内容や学生支援について、具体的な問い合わせをいただくようになりました。それに、教職員の間でも、自分たちの仕事が学生にどんな価値をもたらしているのかを考えるようになってきたんです」
「それは、いい変化ですね」
「まだ、学生募集の結果が大きく変わったわけではありません。でも、これまでのように、ただ入学者数の数字を見て焦るだけではなくなりました。私たちが何を大切にし、どんな大学を目指すのか。そこを話し合えるようになったんです」
私は、電話の向こうで嬉しくなり、思わず笑顔になった。
「理事長、そこが大事なんです。ブランディングは、短期間で入学者数を増やすための魔法ではありません。大学が自分たちの価値を理解し、それを育て、社会に伝えていくための取り組みですから」
「ええ。ようやく、その意味がわかってきた気がします」
私は、ここで一つ、理事長に伝えておきたいことがあった。
「ただ、これからは、経営の視点でも変化を見ていく必要がありますね」
「経営の視点?」
「はい。大学のブランドが育つということは、単に知名度が上がるということではありません。高校の先生が生徒に勧めやすくなる。保護者が安心して受験を考えられる。学生が入学後も学び続け、成長できる。卒業生が大学に誇りを持ち、地域や企業とのつながりが深まる。そうした変化が、大学の経営にも影響してくるんです」
理事長は、真剣な声で尋ねた。
「具体的には、どんなところに表れますか?」
「志願者数や入学者数、それに退学者数の状況などを、長期的に見ていくことは当然なんですが、それだけではありません。学生や保護者の満足度、卒業生とのつながり、高校や企業との連携、教職員の意識なども大切な指標になります」
「なるほど。入学者数だけを見ていては、大学が本当に変わっているのかどうかはわからない、ということですね」
「そうです。もちろん、大学経営を続けていくうえで、収支や定員充足率は非常に重要です。ただ、それらの数字だけを見ていても、なぜ志願者が増えたのか、なぜ学生がこの大学を選んだのか、その理由まではわかりません。だからこそ、数字の変化と、その背景にある価値の変化を一緒に見ていく必要があるんです」
理事長は、納得したようにうなずいた。
「ブランドが育つことで、大学への信頼が高まり、その信頼が学生募集や経営の安定につながっていく。そういうことですね」
「ええ。ただし、必ずそうなると決まっているわけではありません。教育の質や学生支援を磨き続けることが前提です。ブランドは、実体が伴わなければ長続きしませんから」
私は、少し間を置いて続けた。
「大学の経営的価値というのは、目先の収入だけで決まるものではないと思います。学生や保護者、卒業生、地域、企業から信頼され、長く選ばれ続ける力も、大切な経営資源だと思います」
理事長は、静かに答えた。
「ようやく、大学のブランドと経営がつながってきた気がしますわ」
~続く~
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