-3- 近大マグロ仕掛人のブランド再生塾/医療機関編
2026年11月05日
コラム

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私は、少し姿勢を正した 。
「たとえば、理事長が体調を崩したとします。検査を受けなければならなくなったとき、どの病院に行こうと思いますか」
「そうですね。そりゃあまあ、『うちの病院』と言いたいところですが、一般的には『専門性が高く、信頼できる病院を選びたい』ということじゃないんですかね」
「その『信頼』というのは、どこから生まれるのでしょう」
「医師の技術や実績、設備、それから評判・・・でしょうかね」
「そうですね。では、診察のときに医師がきちんと話を聞いてくれる。検査の結果をわかりやすく説明してくれる。看護師が不安そうな自分に声をかけてくれる。そんな、患者さんから見た経験も、次にその病院を選ぶ理由になりませんか」
「確かに、そうですね」
「つまり、ブランドとは、病院が自分たちについて語る言葉だけで決まるものではないんです。患者さんや家族が、その病院をどう感じ、何を期待し、どんな印象を持っているか。そうしたものが積み重なって、病院のブランドになっていくんです」
理事長は、腕を組んで考え込んだ。
「そう考えると、私たちが病院の強みだと思っていたことと、患者さんが感じている強みが違う可能性もあるわけですね」
「ええ、そのとおりなんです」
「だとすると、まず患者さんの声を聞く必要があるというわけですか」
「ええ。ただし、患者さんの声だけではありません。医師、看護師、医療技術職、事務職員、患者さんのご家族、地域の方々。それぞれが違う立場から病院を見ています。そこに、まだ気づいていない価値が隠れている可能性があります」
私は、近大マグロの経験を思い出していた。
長年、養殖技術の研究に取り組み、完全養殖を実現した。技術的な成果は大きかった。しかし、その価値が消費者にどう受け止められるかを考えなければ、ブランドとして広がることはなかった。
そして、実際にお客様の声を聞くなかで、自分たちが想定していなかった価値に気づくことができた。
病院も同じではないだろうか。
病院の中にいる人にとって、日々の仕事は当たり前の連続である。患者さんに説明することも、相談に乗ることも、退院後の生活を心配することも、仕事の一部として受け止めているかもしれない。
しかし、患者さんにとっては、その一つひとつが病院への信頼を左右する大切な経験になっている可能性がある。
「理事長。私は、最初から答えを決めてしまわないほうがいいと思います」
「といいますと?」
「この病院のブランドは何か。どんな患者さんに選ばれたいのか。どんな価値を伝えるべきなのか。それを自分たちだけで決めるのではなく、実際に病院と関わっているすべての人たちに聞いてみるんです」
理事長の表情が、少し変わった。
「それぞれの現場にこそ答えがあるかもしれない、ということですね」
「そうです。私の口癖は、『わからないことはお客に訊け』なんです」
理事長は、小さく笑った。
「病院の場合、お客という言葉には少し抵抗がありますがね」
私も笑顔で応えた。
「それは、よくわかります。患者さんは、単なるお客さんではありません。医療は、患者さんの命や健康に関わるものですからね。ただ、患者さんの立場に立って考えることは、どんな医療機関にとっても欠かせないはずです」
「そのとおりですね。我々も常に患者さんのためにと言ってきたつもりなんですが、『ために』と『立場で』という違いを考えるうえで、十分ではなかったのかもしれませんね」
「ええ、だからこそ患者さんをはじめ、病院を支えている人たちの声を聞くことから始めたいんです」
~続く~
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